いつでも眠い

夢の記録。夢なので乱文で、こっ恥ずかしいです

憧れの人との夢

2014.05.09.

 

 私の住む街・表参道には、いつも女学生達の憧れの君達がいた。皆、遠巻きにキャーキャー言って騒いでいた。彼らのことなど、私達は何も知らないのに、不思議なほど魅力的で、一目姿を見るだけでも心が浮き立った。彼らは私達に構うことはなく、目が合うことなんて決してないのに、誰もが虜になる不思議な集団だった。しかし、不思議なことに、私達は彼らに必要以上に近寄ろうとしなかった。遠くにいるべきだと、誰もが薄々感じていた。理由は、その時はわからなかった。


 あるとき、私自身に嫌な出来事があり、不機嫌に街を歩いていると、いつものように、女子生徒達が集まっているのが見えた。その視線の先には当然、『憧れの君』達がいた。私も集団の後方からぼんやりと眺めていると、突然優しい声がした。

 

 「こっちにおいで」

 

 そっと、手が引かれたような気がした。え、と戸惑う間もなく、気付けば、『向こう側』に行ってしまった。ハッと気づいたときには、一番私の憧れている人の腕のなかにいて、周りにいたはずの少女たちは消えていた。サラサラした黒髪に、少しつり気味の目のその『憧れの人』は、思っていたよりも背が高かった。こんなに近づいたことがないから、わからなかった。夢見心地のまま顔を見上げると、彼はにっこりと柔らかく微笑んだ。

 

 それがあまりにも理想的で、私の好みど真ん中だったので、どぎまぎしながら条件反射的に微笑み返した。なんの躊躇もなく、柔らかくキスされたので、慣れてないはずもないのに、ウワァ~~~!!と思わず目をつぶった。キスを受けると、急に心が落ち着いてきた。なぜ私が有象無象の女の子の中から選ばれたんだろう。不思議に思っていると、抱きしめられたまま、再びにっこりと微笑まれた。

 

「もう、帰れないよ」

 

 意味はよくわからないまま、別に彼といられるのなら帰れなくてもいいや、とぼんやり考えていると、そっと頭を撫でられた。

 

 困ったなあ、帰れないのか~。連れてこられちゃったけど、ずっとこの生活ができるなら幸せだな~、な~んて。本当は困っちゃうんだけど。

 

 困ってもいないのに悩むフリをして幸せに浸る私は、異常なほどうかれていた。されるがままにしていると、彼は急に面白そうな表情で、パッと私の顔を覗き込んだ。

 

「ねえ、忘れてる?」

「え?」

「xxちゃんは、自分から『こっち』に来たんだよ」

 

 囁くようにそう言った彼を、ぼんやりと見つめた。突然の話で呆けた顔をする私を見て、にっこりと笑う。

 

 『こっち』に、自分から来たって、いったい、なんだ。『こっち』?『こっち』ってなに?

 

 理解できずに固まっている私をもう1度優しく抱き寄せて、そうなんだよ、と、あくまでも穏やかな声でつぶやいた。嬉しそうな顔すら浮かべて、まわした腕でポンポンと、赤子をあやすように、私の背中をたたいた。

 

「君はさ、『あっち側』が嫌になって、それで『こっち』に飛び込んだ来てんだよ。僕は君が来てくれて、嬉しいけどさ~」

「エッ・・・!!!」

 

 素っ頓狂な声が喉奥から飛び出した。ようやく実感したときには、すでに遅かった。『こっち』側、つまり、あの世に来てしまったのだった。もう戻れないということに気付いたものの、私にはどうすることもできないように思えた。色々と言いたい事が、小さな頭のなかで濁流のように渦巻いたが、何一つとして言葉には出てこなかった。固まった私を、ぎゅっと抱きしめる。

 

「ごめんね。だからもう、あっちには帰れないんだ」

 

 謝るというよりは、今にも歌いだしそうな調子で言われたせいか、この状況が常識はずれなせいか、私は、そうなのか、とすっかり納得してしまった。

 

「だから、僕と楽しもうか」

 

 こくりと頷くと、また楽しげにキスされた。こんなにも心地よいのはこの世の人じゃないからなのかもしれない。いや、実際そうなんだろう。柔らかなキスは、身体が芯から蕩けるようだった。唇もやわらかくて、その形も、厚みも、すべてが理想的だった。

 

 これは私だけの問題であるようだった。けしかけて一歩踏み出させたのが彼であるにせよ、彼にとっては、私が『こっち』に来てしまったことから目を背けることも、それによって消えてしまうことも、何ら関係ないようであった。私が消えても、彼は何食わぬ顔で今まで通りの生活をするし、雨が降ったときほどの影響もないらしかった。私自身の問題なのである。

 

 『こっち』側に行ってしまった私は、いつか近いうちに死ななければいけない。私は、あの世とこの世の狭間にいる中途半端な存在だった。どうにかしなければと、私は彼と別れ、全てのことを知り永遠の時間を持つ人魚のもとへ相談に行った。辺境の地に住む人魚は、深い海を越えた洞窟の奥にいた。相談者は他にもいた。

 

 私がすべてを話す間、人魚はじっと黙っていた。聞き終えると、フン、と鼻で笑った。

 

「そんなことが。なんて自分勝手で愚かな悩みなの!」

 

 人魚は呆れたようだったが、私は懸命に頼み込んだ。死が恐ろしいのではなく、彼と離れることが耐え難かったのだ。どうにか共に生きていきたいと懇願した。彼が私をどう思っているかは明らかだったが、私は彼が好きだった。

 

 彼とともに生きるため、と銘打った『あちら』側へ還る願いを叶えるためには、様々な困難を乗り越えなければならなかった。人魚は古くから伝わる術を教えてくれた。そして、どうしてか、その術の段階が進むにつれて、私は次第に彼のことを考えなくなっていった。当初の目的は、それほど重要ではなくなっていた。

 

 ようやく自分の命を取り返せたときに、彼のもとを再び訪れた。今度は『あちら』側の住人として彼に会ったのだ。

 

 彼のもとに着くと、彼の隣には純朴そうな少女が並んでいた。それを見ると、忘れていた心の傷のようなものがチクリと痛んで、胸が苦しかった。けれど、すんなり納得できた。彼は私に一度も見せたことのないような、心から安心しきって幸せそうな笑顔で、やあ、と片手をあげた。私が長い間いなかったこと、ましてや死にかけていたことなど、知らないようであった。自分の心の中にぽっかりと空洞があって、そこに靄がかかったような感覚に、一瞬、私は怯んだ。しかし次には、久しぶり、と言って微笑み返す自分がいた。

 

 その子はだあれ?というような野暮なことは聞かなかったが、彼は察したのか自慢したかったのか、嬉しそうに笑った。

 

「超自然的吸引力っていうのかな。彼女と会った瞬間に、惚れてしまったんだ。運命ってやつだよ」

 

 じゃあ、私は?と、叫んで今更問いたい気もした。しかし本当は、適当な暇つぶし相手で、死のうと死ぬまいと彼にとっては微塵も関係ないくらい、私は彼にとってどうでもいい相手だということは、もちろん初めからわかっていたのだった。

 

 素朴なのが唯一の売り、というふうな、「女」にすらまだなっていない冴えない少女と彼は、二人で顔を見合わせて笑っていた。こんなやつのどこが、と、完全に慕情が断ち切れず、未練がましい嫉妬が僅かにゆらめいた。だが、相手と自分を傷つけてまで感情をぶつけられるほど、私はすでに彼の事を想っていなかったのだった。これが人魚の術のおかげなのかは、今となってはわからなかった。私は、彼の一番になれなかったことはとうに理解して諦めていたが、たとえ一瞬でも、一方的でも、本気で好きだと思えたことは事実であり、ただそれだけでいいと思った。

 

 

――――――――――――

 

 

 

 夢に出てきた理想男子は、黒バスの赤司と、高校のとき憧れていた国語の先生にほんの少し似ていた。

 なんか文字に起こすとむなしい夢なんだけど、わりと見ているときは幸せな気分だった。報われない系の夢は疲れるけどけっこうおもしろい。

 

 

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