いつでも眠い

夢の記録。夢なので乱文で、こっ恥ずかしいです

母の再婚相手に失恋する夢

キリシマ ダイスケさん。

母の職場の元・部下。男性。男性っていうか、若い男。母よりも、私の方が年齢が近い。28歳。最近、母とよく会う、若い男。

そして、私の好きな人。


キリシマさんと出会ったのは、母の職場で開かれた家族参加型のBBQイベントだった。色が白くて、のっぺりとした顔、どちらかといえば冴えない印象の人だった。身長だって、162cmの私とそう大して変わらない。スポーツが趣味の私の方が、よっぽど体格がいいかもしれない。でも、ほとんど一目ぼれに近かった。一人で先に後片付けをしている彼を、いそいそと手伝いに行き、なんとか仲良くなろうとしたのは、記憶に新しい。

いつからか、キリシマさん、という単語を呟くとき、母は女の顔をするようになっていた。いや、最初からそうだったのかも。二人はそういう関係になった。

 

ある日、大学の授業中にお腹の下あたりが我慢しかねるほど痛くなったので、終日詰まっていた授業を午前で抜け出し、都営新宿線に飛び乗り、体を丸めながら帰路を急いだ。

 

つい1年ほど前に父と離婚した母は、日中働いている(といっても、以前から共働きだった)ので、平日は家に誰もいないはずだった。しかし、一軒家の我が家に、明かりが点いているのが遠くから見えた。母がいるんだ、と思った。それから、直感的に、キリシマさんが来ていると思った。そう思った瞬間、心の中に、言い表せないモヤモヤとしたものが渦巻いて、勝手に喉の奥がキュッと絞まったような気がした。

「ただいま~~~~あー疲れた~」

わざとらしいほど大仰に声を上げながら、玄関の重い扉を雑に開けると、ガチャンッと大きい音が響いた。何か、「見てはいけないもの」に遭遇しないように、わざと、私の存在を主張したのだった。

 

家に入ると案の定、母がいて、普段とは違って綺麗に身なりを整え、「女」になった姿が目に入った。キリシマさんはいなかったが、予想は確信に変わった。やっぱり。

母の「女」という性を軽蔑する気持ちと、キリシマさんとおそらく結婚する仲であることを信じたくない気持ちと、それでも彼に会えるんだという嬉しい気持ちがごちゃごちゃと入り混じる。苦しい。

「あれ?なんで今日お母さんいるの?」

さも事情に気づかないように、声をかけた。母は照れたように微笑んだ。

「これからキリシマさんが来ることになっちゃって」

なっちゃって、だって。そんなはずないじゃん。同じ日に示し合わせて有給取ったんでしょ。なにそれ、私聞いてないんだけど。私が予定外に帰ってこなかったら、二人でこっそり会ってたってわけ?なんか、そういうの、なんか嫌だ。裏切られた気分。嫌だ。サイテー。

「そーなんだ、よかったね」

私は何気ない顔で微笑んだ。自分の心が、ばれていない自信はあった。母の顔に笑みが広がったのを見て、私は自分の心と反比例させるように、さらににっこりと笑った。

キリシマさんと母が普段、私に気を遣って滅多に会うそぶりを見せなかったり、デートに行かなかったりと私を「気遣って」いるのに、私はそんな二人を素直に応援できないのは、私自身の未熟さ所以だった。一連の感情は、嫉妬だけではなくて、きっと、拗ねているのだ。幼稚で、自分勝手で、思春期のような、そんな感情なんだと自分自身でも気づいていた。

 

「●●さん」

母を呼ぶ、柔らかな声が玄関のほうから聞こえて、心臓がドクンと跳ねた。間違うはずもなかった。彼だ。

「ごめん、代わりに出てもらってもいい?」

嬉しかった気持ちは、母ではなく私が玄関に出たときの顔を想像すると、一瞬でしぼんいった。気乗りしないまま、そっと扉を開けると、黒の上着に、白のワイシャツ、細身のチノパンを着た、彼が立っていた。やはり予想外だったのか、少し驚いた顔をした。ちょっと遅れて、こんにちは、と微笑む。急に、お腹の痛みが戻ってきた。ズキン、ズキン。鈍く痛む。私は気づかれないようにお腹にそっと手を当てながら、にっこりと笑って、客間に案内した。

「ダイスケくん、お母さん呼んでくるから、待ってて。はい、お茶どうぞ」

「あっ、お気遣いどうもありがとう」

 

そのあと、すぐに母が客間に来た。お互いに、私が普段見ることのない、ちょっと緊張した、でも心底幸せそうな表情だった。私はそっと自室に戻って、二人の邪魔をしないように、限りなく気配を消そうと努めた。ズキン、ズキン。その傍らで、お腹の痛みは一向に治まる気配はない。私はベッドで丸くなって、痛みが去るのを待った。時々、客間から明るい笑い声が聞こえた。二人と同じ屋根の下にいるのは、どうしても耐え難かった。

私はタイミングを見計らい、客間にそっと顔を出した。

「ごめん、ちょっと出かけてくるね」

「わかった、気をつけてね」

「あと、友達とご飯食べるから、お夕飯はいらないから」

「そうなの。いってらっしゃい」

何の気なしに、ごゆっくり、と言おうと思ったが、なんだか余計なことのような気がして口を噤み、私はそっと家を出た。

なんだよ。普段は門限に口うるさいくせに。こういう時ばかり、何も言わない。母も女なのだと、理解はしているし、どうにか幸せになってほしいと思っている。しかし、どうしても素直に彼らを祝福できない自分もいて、どうして彼を好きになってしまったのか、どうして応援できないのか、自分の幼さが歯痒かった。

お腹は痛みを増す。脂汗が止まらない。でも、遠くへ行かねば。私はただひたすら足を動かした。

 

私はその日から、一人暮らしの物件を探し始めた。母はそのことについては何も言わなかった。結局、大学近くのアパートを借りることにした。これでもう苦しくていたたまれない思いをせずに済むんだ。そう思ったら、久しぶりに楽な気持ちになった。

 

引っ越しが済んで一人暮らしに慣れ始めた冬のある日に、突然キリシマさんが私のアパートに現れた。私は玄関先で、さも何事もないように取り繕った。

「ダイスケくん、どうしたの?」

「その、××ちゃんと、話がしたくて」

「うん、なあに?」

寒空の下で鼻を赤くするキリシマさんに、私は不思議そうな顔をして、にっこりと笑いかけた。部屋の中になんて入れてやらない。さっさと帰ってよ。なんで私が一人暮らししたと思ってんだ。なんで、よりによって、おまえが、来ちゃうんだ。

「あのさ、余計なお世話だと思うんだけどさ…」

キリシマさんは真剣な面持ちで、私の目をまっすぐに見て言った。

「帰っておいでよ」

その瞬間、カッとした。どの口が言っているんだ。おまえのせいで。私は。

同時に、私の冴えない気遣いと感情が当たり前のように見透かされて悔しい気持ちと、本当は気付いてほしかったという気持ちで、自分のすべてが恥ずかしかった。

「やだなあ、信じてもらえないかもしれないけど、私も一人暮らしずっとしたかったし」

言い訳がましい。更に墓穴を掘っているような気分だ。

「でも…」

「二人で暮らしなよ。私も来年には社会人だし」

遮るように言った。彼はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、そう、と微笑んだ。あ。愛想笑い。おまけに、右手をぎゅっと固く握っている。困ったときの癖だ。

彼は、考えを逡巡させたのか、すこし間をおいてから、短くそっと息を吐いた。

「ごめんね、」

何が、とは言わなかった。おそらく、全てに対してだろう。謝る必要なんてないのに。いい歳して拗ねている私が、いや、母の再婚相手を好きになってしまった私が悪いのだから。

その夜は、悔しくて、恥ずかしくて、切なくて、寝れなかった。空が白み始め、遠くから犬の吠える声を聞きながら、ただただベッドに横になっていた。

 

 

久々に、実家に帰った。帰りたかったわけではなく、母に呼びつけられたのだった。呼ばれて拒否するほどの度胸はないし、別に不孝娘になりたかったわけでもないから、気は重いが私は実家を訪れた。

実家での二人の仲の良さと絆は、私なんか入る隙もないものだった。このまま二人の結婚が無事に済み、幸せな家庭を築いてほしい気持ちのある一方、初めからキリシマさんに気にも留めてもらえない「圏外」でみじめな自分を改めて認識し、居た堪れない気持ちでごちゃまぜだ。その場をすぐにでも去りたかった。微笑む二人を横目に、そっと私は席を外した。

 

キリシマさんは、リビングのソファのあたりで、私をちらっと見て、慌てたように目をそらした。ずっと落ち着かない様子が気になっていた私は、そっと彼に近づいた。

「ダイスケくん、どうしたの?」

内緒話ということで、ソファの後ろに二人で身を隠した。初めこそ話そうとしなかったが、根気よく尋ね続けると、彼はようやく蚊の鳴くような声で、重い口を開いた。

「いや、本当は●●(母の名前)さんと…」

「え、違う家を借りて、一緒に暮らしたいの?」

彼は困ったように微笑みながら、私の言葉にうなずいた。もごもごと弁解し、母を擁護する彼に、私はアメリカ映画の登場人物さながらに、わざとらしく顔を顰めた。

「そういうの、ちゃんと本人に言わなきゃダメだよ、いつまでも伝わらないよ」

私はすっくとソファの陰から立ち上がると、遠くにいた母に半ば叫ぶようい声をかけた。

「ねえ、おかあさん!ダイスケくん、一緒に別の家探したいんだって~!」

なんで、私、二人の世話なんかしているんだろう。じゃあ、私、なんで一人暮らし始めたんだろう。

「ダイスケくん、本当にお母さんのこと好きなんだね」

照れたように笑う彼を、彼の幸せも何もかもを、滅茶苦茶にしてやりたかった。

二人は、勝手だ。私は、心が狭い。悔しい。辛い。みじめだ。つらい。つらい。つらい。くるしい。

私はその場で声をあげて泣きたい気分だった。

 

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・実際の我が家は父母離婚していない

・本当の母ではなく、なんか綺麗な中年の女性が母役だった

・部下役は、会社でちょっといいなと思ってる先輩だった

・すごく感情的な夢で疲れたし、話めちゃくちゃだった